先週の金曜日、気づいたら朝9時から夕方6時まで、Slackも開かず、同僚とも話さず、AIとだけ壁打ちしていた。30回以上のプロンプトを打ち、コードを修正し、また指示を出す。そのループのあと、猛烈な疲労感があった。
これは前にもあった。リモートワークでagentic codingをしていると、一日の大半をAIとの対話で過ごすことになる。情報はAIからひっきりなしに流れ込んでくるのに、人間との緩いやりとりがゼロの状態。これが意外と精神を削る。
頭が妙に重いので、夕方にお茶を買いにコンビニに行った。店員さんに「袋いりますか?」と聞かれて「いらないです」と答えた。たったそれだけのやりとりで、なぜか少し軽くなった気がした。
なぜ機械との会話だけでは消耗するのか
AIは即レスだ。0.5秒で返事がくる。こちらの思考は常に「次は何を指示しよう」「この出力は正しいか」「どこを直そう」というモードから抜け出せない。脳が休むタイミングがない。
人間同士の雑談には「間」がある。相手が考え込む間、言葉を探す間、相槌を打つ間。その沈黙やすきまに、脳が息継ぎをする。AIとの会話には、ハイテンポな情報の受け渡しはあっても人間の脳に必要なアイドリングの時間がない。
会話の種類と認知負荷への影響
AIと壁打ちを続けていると、すべての会話が「目的志向」になる。指示を出し、結果を受け取る。これだけだと、人間の会話に含まれる無駄や遊びがすべて抜け落ちる。
| AIとの壁打ち | Slackのテキスト | 雑談(声で話す) | |
|---|---|---|---|
| 情報の密度 | 高い | 中 | 低い |
| 応答の即時性 | 0.5秒 | 数分〜数時間 | リアルタイムだが間がある |
| 心理的安全性 | ゼロ | ややある | 高い |
| 脳の休まりやすさ | ★☆☆☆☆ | ★★☆☆☆ | ★★★★★ |
| 始めるハードル | 低い | 低い | 相手による |
試したこと
この問題に気づいてから、いくつかの方法を試してみた。
ひとつは、AIに質問する前に、まずSlackで同僚に「これどう思います?」と聞いてみること。答えよりも、会話のキャッチボールを一回挟むことが目的だ。たいていすぐ返事は来ないし、それでいい。返事を待っているあいだ自分はAIではなく自分の頭で考える時間が生まれる。
もうひとつは、週に一度、同僚と通話しながらコードを書く時間をあえて作った。画面共有しながら「ここ、AIの出力があってるか一緒に見てもらえますか」とざっくばらんに話す。声を出しているぶん、情報処理のモードが切り替わって、終わったあとの疲れ方がまったく違った。
最近は家族との「おはよう」「ただいま」のあとに、一言余計なことを言うようにしている。「今日暑かったね」とか「この前買ったパン美味しかった」とか、どうでもいい情報の交換だ。そのどうでもよさが、AIと対峙しているときのピリピリしたモードをほぐしてくれる。
どうやって日常に戻すか
一日のなかで、人間と言葉を交わしたかどうかを意識するようになった。AIと話す前に、誰かと話す。その順番だけでも、頭のコンディションが変わる。
- AIに質問する前に、誰かに「ちょっといいですか」と声をかける
- Slackで用件を伝えるとき、ついでに一言だけ余計なことを書く
- 通話できる相手がいるならテキストより声を選ぶ。情報密度が下がるぶん脳が休まる
- 行きつけの店や家族との「おはよう」レベルの会話を、わざわざ大切にする
AIに仕事を任せれば任せるほど、人間同士のゆるい会話の価値は上がる。それは効率のためじゃなく、壊れずに続けるために必要なものだ。AIに判断を委ねすぎる「認知的降伏」から抜け出すには、あえて人間とだらだら話す時間が効く。
今日、誰かと仕事に関係ない話をしたかどうか。その問いをたまに自分に投げるようにしている。コンビニの「袋いりますか?」でいい。それが、AIと壁打ちで過熱した脳を冷ます、いちばん手軽な方法だった。
今日、仕事の用件以外で誰かと声を交わしたかどうか、思い返してみてほしい。なければ、今から一言でいいから誰かに話しかけてみるといい。
Slackでもいい。「お疲れ様です」の後に「今日のランチ何食べました?」と一文追加するだけで、脳のバッファがクリアされる。